はじめまして。

富士山の麓、静岡県富士市にあります、養護老人ホーム「するが荘」で働いている、しょうじです。

養護老人ホームは、いわゆる“生活に困窮している”65歳以上の高齢者が入所をする施設です。認知症や寝たきりなどのご利用者の多い特別養護老人ホームと異なり、比較的元気な方が多く、そのために私たちは、できるだけ自立した生活が送れるようなサポートを行っています。

するが荘の行事の様子です。地域の子どもたちと交流が盛んな施設です。

するが荘では、「利用者・職員が一丸となって、自分たちの可能性を広げ、社会価値のある楽しいことに取り組む」活動を大事にしております。日々、新しいチャレンジが生まれる心豊かな施設です。

今回は、アルコール依存やうつ病などで飲酒やタバコの嗜好品のコントロールができなくなり、ひとり暮らしの継続が難しくなったため入所された60代後半の男性のHさんについて紹介いたします。

Hさんは、もともと職員に促されてようやく散歩に行くようなタイプの方で、ほかのご利用者とのかかわわりを拒否する傾向にありました。しばらくするとひとりで部屋にこもって過ごすことが多くなっていきました。

ある時、Hさんが近所への散歩から帰った時、とても陽気な状態でした。実は・・・スーパーマーケットでお酒を購入し、飲酒・喫煙をしたようでした。するが荘は喫煙可能な人は喫煙OKとしていますが、飲酒は厳禁としております。これはアルコール依存症の方も多くいるので安全面の観点よりすべての利用者の方にお願いしていることでした。

ここからが、スタッフのかかわる力が発揮されました。すぐに職員がHさんとの面談を行い、どうして飲酒をしてしまったのかと、これからどうしていくかなど、本人の気持ちや背景について一緒にとことん話しました。

Hさんはするが荘へ入所してから、ほかの利用者さんとなじむきっかけがなく、日々の生活での楽しみが少ないと感じており、昔みたいにお酒飲んで楽しみたくなってしまったと話してくれました。

さらにHさんの趣味・長所などをさまざまな観点からお話を伺い、お酒に依存しない生活習慣への支援の方向性を探りました。お話していくなかで、実はHさんが将棋や囲碁が大好きだということがわかりました。私たちスタッフはそのHさんの強みを活かして活動を広げていくことにチャレンジしました。

ここで、するが荘では３つの取組を実施しました。

まず私たちが実施したことは、地域のまちづくりセンターに将棋ボランティアの募集チラシを貼り出しました。すると定年後、時間に余裕のある地域の人たちが手をあげてくださいました。当初は一人の参加者だったものが、最終的には毎日３～５名もの方がたが施設にきて、Hさんやほかのご利用者と将棋をするようになりました。

つぎに、私たちは地域の高校の将棋部に問い合わせし、定期的に校外部活動として施設にきていただくお願いをしました。高校生たちは、快く了承してくださり、月に1度、施設にきて、ご利用者たちと将棋をするようになりました。後になって、Hさんはそこの高校の将棋部出身だということがわかり、また実際にHさんが強いこともあり、将棋部の大会前には、コーチの依頼がくるほどの関係となりました。

最後に、私たちはHさんに依頼して、近隣の特別養護老人ホームにボランティアで将棋をしにいってもらうことにしました。その特別養護老人ホームでは、最近将棋が趣味な方が入居したけれど、ご利用者に将棋ができる人がいなく、困っていると相談を受けました。するが荘としては、「地域からボランティアを受ける施設」以外に「地域へボランティアに参加する施設」をめざしており、「これは！」と思って申し出を受けることにしました。

特別養護老人ホームにボランティアで出かけるHさん（右奥）とYさん（右手前）の様子①

ボランティアで出かけるHさん（左）とYさん（右）の様子②

福祉施設とは、ボランティアの方が訪れにくかったり、ご利用者が外に出づらい面があるかもしれません。しかしながら一つの工夫ときっかけで、たくさんの人が出入りするようになり、一人ひとりの支援も変わっていくようなチャンスはたくさんあります。

「ひとの自立を支援する」ということは、その人のもっている強みを活かすということが重要になってきます。子どもも大人も、社会人もシニア世代も、自身の強みを活かせる機会や場面をお互いに大事にできる環境そのものが、重要なのかなと思います。

そんなことを考えるエピソードでした。

Hさん（真んなか手前）とするが荘の利用者仲間と一緒に静岡県富士山世界遺産センターへ行く車内の様子

引き続き養護老人ホームの日常を紹介させて頂ければと思います。宜しくお願い致します。