社会福祉HERO’S

中学校で介護の授業がスタート!? 〜文部科学省新学習指導要領ではじまった 「福祉の授業」担当者の話を聞いてみた!

先輩・同僚インタビュー

聞き手 Bamboo 2022.05.11

皆さんこんにちは!社会福祉ライターのBambooです。私は普段、島根県松江市にある、社会福祉法人豊心会(ほうしんかい)で特別養護老人ホームの管理者などをしています。介護施設での勤務ということは、いわゆる“施設のなかで働く”というイメージがあるかもしれませんが、実はほかにもいろいろなことをやっています。

皆さんは文科省の学習指導要領が改定されたことをご存じですか?中学校の技術・家庭の分野では、家庭や地域で高齢者との関わりを協働するために必要な学習内容として、立ち上がりや歩行などの介助の方法について扱い、理解できるように指導します。介護の基礎に関する体験的な活動として、例えば、生徒が立ち上がりや歩行などの介助を体験し、介助する側とされる側の気持ちや必要な配慮について話し合う活動や、高齢者の介護の専門家などから介助の仕方について話を聞く活動などを想定し、その実践が期待されています。

島根県では改定に伴い、「福祉の授業」である介護の基礎的講座を県内の社会福祉法人が連携して実践しています。今回は当法人で「福祉の授業」を担当している、岡 昭彦主任(36歳、現場の中心的人物です)にインタビューし、「福祉の授業」について聞いてみました!

岡さんが勤務する特別養護老人ホーム明翔苑は、平成16年4月に島根県内初の全室個室・ユニット型の特別養護老人ホームとして開設して以来、「その人らしく生きる」ことを重視したケアの充実に日々取り組んでいます。岡さんが勤務する地域連携室へ伺いインタビューしました。

武部:まず、岡さんはどんなお仕事をされていますか?

岡:普段は、特別養護老人ホームの生活相談員として、ご利用者やご家族からの相談、入退所や入退院に関する調整、契約等の業務を中心に仕事をしています。

しかし、入職当初から生活相談員だったわけではなく、まず介護現場で経験を積み、介護福祉士の資格を取りました。その後、認知症介護実践者研修・認知症介護実践リーダー研修・ユニットリーダー研修などさまざまな研修を受講し、ユニットリーダー、フロアリーダーを経験して、現在は生活相談員(主任)として務めています。

武部:なるほど、素晴らしいご経歴ですね!では、そろそろ「福祉の授業」について聞かせてください(笑)

岡:そうですね(笑)法人内にはさまざまな委員会がありますが、私は地域活動実践委員会に所属しています。この委員会はその名の通り、地域のヒトやモノ、コトとのつながりを強くするための活動や、その活動の広報をするという役割があり、法人内の各事業所からソーシャルワーカーやケアマネジャー、看護師、管理栄養士や介護福祉士などが集まった多職種チームです。

地域の皆さんの生活に役立つ情報などをそれぞれの専門職がメニュー化して行う出前講座の実施や、広報誌の制作を行うなかで地域の方がたとたくさんお会いします。介護施設という事もあって、かかわる相手は高齢者の方がたが中心と思われがちですが、実は一番お会いするのが多いのは中学生なんです!

介護施設で働いていますが、

実は、高齢者よりも中学生とお会いすることの方が多いんです。

 

武部:どういう事ですか?

岡:当法人では松江市、県社協・市社協、市内の社会福祉法人と連携して、各法人の職員を介護のお仕事コンシェルジュとして登録し、介護の基礎的講座普及事業に参画しています。

この事業は、学習指導要領の改訂に伴って、中学校の技術・家庭科で高齢者や地域との協働、介護など高齢者とのかかわりを実践的に学ぶことが規定されたことを契機に、単なる介護学習や体験にとどまらず、介護の魅力や価値(楽しさ・深さ・広がり)などの学習も一体的に進めることで「福祉の心の醸成」や「福祉の人づくり」を効果的に推進することをめざして、取組が進んでいます。

武部:なるほど。中学生さんが一番多いとのことですが、どのくらいの生徒さんとお会いするんですか?

岡:はい、令和2年度は508名、令和3年度は431名の中学生さんとお会いしてきました。

座学の様子。体育館で大勢に向かって実施するときもあれば、クラス内で少人数で行うときも

 

体験では高齢者疑似体験キットを使用

武部:それはすごいですね!コンシェルジュとして実施までにどんな準備がありましたか?

岡:はい、まず中学生に合わせたメニューや資料づくりを、連携するほかの社会福祉法人の職員さんと一緒に検討・作成し、リハーサルも行いました。

資料作りの様子

コンシェルジュが集まってリハーサルする様子

武部:具体的にどんな内容の授業をしているのですか?

岡:授業は大きく「座学」と「体験」の2つに分かれています。座学では人は歳を重ねると体の機能などがどのように変化していくのか、また、福祉のお仕事とはどのようなもので、そこで働く人たちはどのようなことを大切にして仕事に就いているのか、などをお話ししたり、島根県が制作した教育用の動画(DVD)を鑑賞したりします。

また、体験では、高齢者疑似体験キットを着用して、筋骨格、視覚、聴覚などの老化による高齢者の身体的機能や心理的変化を擬似体験したり、車いす操作の体験などをしたりしていただいています。

授業の最初に生徒さんの緊張をほぐすために、クイズをすることもありますよ。

介護の基礎的講座の資料より

武部:資料作りにリハーサルとしっかり準備をされたのですね!講師として生徒さんと関わる際、どんなことを大切にしましたか?工夫したことや苦労したことはありましたか?

岡:はい、資料は文字ばかりとならないようにイメージしやすい画像を差し込み、どうしたら見やすいのか、デザイン(構図)なども工夫するようにしました。また、資料にあわせた説明(スピーチ)では、なるべく専門用語を使わずに話をするよう考え、身近で使っていることばに置き換えて、わかりやすく話をするようにしました。

でも、生徒さん相手に興味を持ってもらえるように、また、伝わるように話すことは、本当にハードルが高いな(笑)と思いました。

武部:本当にそうですよね!やっていくうちに身につくかもしれませんよ!

「今までマイナスのイメージがあったけれど、

介護の仕事は、お年寄りの生活を支援し、

一生に一度の出会いが出来るとても魅力的な仕事」と生徒たち

 

武部:生徒さんや先生方の反応はどうですか?

岡:授業を行った後日、生徒さんや先生から感想をいただきましたので一部をご紹介します。

 ★★生徒さんの感想★★

◉福祉の仕事って人の笑顔を間近ですぐに感じることのできる素晴らしい職業だなと思いました。

◉一番心に残っているのは、実際に福祉の分野で働いておられる方に話をしてもらえたことです。初めは大変そうなイメージしかありませんでしたが、今回のお話しから、とてもかっこいい仕事だなと感じました。

◉みんなの幸せがなければ、自分の幸せもないという福祉の考え方は確かにそうだなと感じました。今回の講義で大切なことを聞いたので、日常生活に活かしていきたいです。

◉介護の仕事は今までマイナスのイメージがあったけれど、お年寄りの生活を支援し、一生に一度の出会いが出来るとても魅力的な仕事なのだなと感じました。

◉車いすの体験では、乗る人の気持ち、押す人の気持ちを考えることができました。車いすで困っている人がいたら助けてあげようと思いました。

★★先生の感想★★

◉とてもいい経験になり、生徒からは普段はなかなか書けない日記に勉強になったと書いてあった。

◉福祉や介護の言葉の意味から具体的な仕事、車いす体験を通して介護する側、される側の関わりについて教えていただいた。

◉現在「共に生きる」をテーマにした福祉学習に取り組んでおり、一連の学習の早い段階で、介護福祉の基礎、地域福祉等について学ばせていただいたこと、実際に車いすに触れ、利用者の立場を体験させていただいたことは、生徒にとってかけがえのない学習となった。

◉今までにやらなかった取組で生徒たちも意欲的でした。実際に職業に就かれている方の話を聴く機会が持てて良かった。車いす体験を実生活に役立てたいという感想が多くありました。

武部:これは嬉しいですね!やる気もアップしそう!!

もう1つ質問です。活動を通じてどんな学びがありましたか?

岡:そうなんです!(笑)学びとしては、資料を作成していく過程で、他の法人の方がたと一緒につくらせてもらいましたが、そのなかで、介護についての価値観や仕事への考え方などいろいろと聞くことが出来て、ものすごく刺激をもらえたと思います。

武部:人に伝える経験を通して、自らの学びも大きい機会になっているようですね!では、福祉に携わる人として、岡さんの今後の目標があれば教えてください。

岡:はい、中学校での授業をはじめてから、高校生や小学生にもお話をする機会をいただくようになり、広がりも出てきました。これからも福祉の魅力を発信していきたいと思います。また、人と人の繋がりを大切にして、地域の方がたと協力しながら、くらしに笑顔や安心の輪が広がっていくような活動をしていきたいと思います。

島根県主催の高校生と中学生がともに介護を学ぶ場で、福祉車両の説明

小学校での授業の様子

武部:島根県での福祉の授業(介護の基礎的講座)は、令和元年に県庁所在地である松江市からはじまり、コンシェルジュとして35名が登録・活動中で、現在は出雲市や大田市、浜田市など県内各市に広がりつつあります。

コンシェルジュの皆さん方は、活動を通じて、つながりが広くかつ強くなっています。また、自分の仕事のすばらしさを再確認できたり、互いの価値観を交えることで新たな発見があったりと、とてもやりがいを感じる成長の場となっているようです。

この活動が福祉のまちづくりが進む一助になればと思います。そしてこれからも、福祉のお仕事の現場でキラキラ輝いている方がたをご紹介したいと思います。

 

 

Bamboo
島根県社会福祉法人豊心会 特別養護老人ホーム明翔苑 施設長

10年前までは、音楽業界でDJなどのお仕事をしていました。それが今では福祉のお仕事が面白くてたまりません!音楽のお仕事も福祉のお仕事も、相手を笑顔にする!楽曲のプロデュースから生活のプロデュースへ!充実した毎日を送っています!

10年前までは、音楽業界でDJなどのお仕事をしていました。それが今では福祉のお仕事が面白くてたまりません!音楽のお仕事も福祉のお仕事も、相手を笑顔にする!楽曲のプロデュースから生活のプロデュースへ!充実した毎日を送っています!

この記事をシェアする

一覧に戻る